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1.伝統的工芸品における生産基盤の概要

 

1-1.伝統的工芸品に使用される生産基盤

 現在、指定の主要伝統的工芸品の製造に使用されている生産基盤(原材料や用具)を整理したのが下表である。

 

図表1-1
主な伝統的工芸品に使用されている生産基盤(原材料や用具)

■原材料

業種

使用している原材料の例

織物

絹糸、真綿の紬糸、玉糸、麻糸(カラムシ、ラミー、リネン、大麻)、天然染料、化学染料、金銀糸(フィルム金銀系)、綿糸、スクモ(藍原料)、糸芭蕉、木灰

染色品

くくり糸、下絵用本青花、黒染料、染料各種、防染糊

陶磁器

粘土各種、陶石各種、釉薬原料各種、化粧土各種、長石

漆器

漆、檜葉、欅、朴、栃、桂、栓、棗、金箔、地の粉(下地材)、さび土、膠、豚血下地

木工品

欅、杉、天然秋田杉、檜葉、栗、桐、漆、桜皮、沢胡桃(サワグルミ)、山ブドウ、マタタビ、ヒロロ、島桑、水木、各種神代木、有色外材、櫟(一位)、楠、コリヤナギ、籐、肥松、黒柿、桑、金具

竹工品

真竹、孟宗竹、トラ竹、黒竹(クロチク)、淡竹、すす竹、その他竹各種、編糸、縁布、櫨(ハゼ)

金工品

鉄、銀、炭素鋼、金、樫、柄

仏壇

姫小松、紅松、ホワイトパイン、杉、檜葉、欅、檜、黄銅、銅、金箔、金粉、漆、胡粉、膠、緑青

和紙

楮、三椏、雁皮

文具

雄勝石、漆、山羊毛、馬尾脇毛、狸毛、膠、煤、黒檀、オノオレカンバ、柘植、真竹、筆軸用竹各種、

 

■用具

業種

使用している用具の例

織物

手織機、機械織機、整経機、杼、管、綜絖、ジャカード機、筬、絣板、撚糸機、足踏繰糸機、型紙、踏竹、千巻(布巻棒)、糸車

染色品

伊勢型紙、筆、刷毛、伸子、桶絞の桶、絞括用針、錐(下絵彫丸キリ)、染色機械、ST紙

陶磁器

電動ロクロ、手ロクロ、蹴ロクロ、筆、鉋、へら、印刀、タタラ木、こて、しゃくし、下絵具、上絵具、石膏型、ガス窯、登窯、灯油窯

漆器

ロクロ、砥石、刷毛、ヘラ、筆、彫刻刀、炭、色粉、鉋

木工品

鉋、鑿(ノミ)、手鋸、木型、こて、綴目、毛むしり、なめし板、割き器、漆刷毛、彫刻刀、割り子、行李生地編台、行李生地編機械

竹工品

ヒゴ作り機、編機、荒割り、つがい削り、端削り、竹割包丁、切り出し小刀、巾取り小刀

金工品

金槌(金槌、当金)、当金、鉱物油、コークス、木炭、回転砥石、包丁、ベルトハンマー、プレス、炉、鏨(タガネ)、鹿の角

仏壇

刃物、漆刷毛、筆、彫刻刀、鑿(タガネ)、綿

和紙

簀、桁、漉槽、乾燥板、漉き用刷毛

文具

鑿(ノミ)、砥石、くし(筆用)、鋏、半差し(ハニサシ)、分差(分指し)、型入れ、ボール盤、鉋、鋸

(出所)「伝統的工芸品づくりの材料・道具ネットワーク・データベース」をもとに作成

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1-2.問題を抱えている生産基盤

 上記の生産基盤のうち、調達上の問題を抱える生産基盤を、「伝統的工芸品づくりの材料・道具ネットワーク・データベース」をもとに整理したのが図表Ⅰ-2である(一産地でのみ問題となっている原材料・用具は省略した)。

 図表Ⅰ-2より、原材料では、竹各種、陶土各種、和紙用原料(楮、三椏、雁皮)、桐、絹糸、苧麻糸、真綿の紡ぎ糸、染料各種、漆など、用具では、織機、織機用管、竹筬、刷毛(漆工用)、蒔絵用筆彩色・面相用筆、簀(または簀桁)、彫刻刀、炭などが、多くの産地で調達上の問題を抱えている主要な生産基盤と考えられる。

 

図表1-2 産地において調達上の問題を抱える主な原材料、生産用具

<原材料>

問題を抱える原材料

伝統的工芸品

問題・課題形態

真竹

別府竹細工 (大分県)

採取人材不足

都城大弓 (宮崎県)

採取人材不足

八女提灯 (福岡県)

採取人材不足

駿河竹千筋細工 (静岡県)

採取人材不足

孟宗竹

八女提灯 (福岡県)

採取人材不足

駿河竹千筋細工 (静岡県)

採取人材不足

すす竹、淡竹

高山茶筌 (奈良県)

採取人材不足

竹各種

江戸和竿 (東京都)

天然資源の枯渇

川尻筆 (広島県)

天然資源の枯渇

京扇子・京うちわ (京都府)

天然資源の枯渇

奈良筆 (奈良県)

調達コスト増加

熊野筆 (広島県)

採取人材不足

陶土

陶土各種

笠間焼 (茨城県)

天然資源の枯渇

益子焼 (栃木県)

天然資源の枯渇

信楽焼 (滋賀県)

天然資源の枯渇

九谷焼(石川県)

質の低下

京焼・清水焼 (京都府)

天然資源の枯渇

大谷焼 (徳島県)

天然資源の枯渇

伊賀焼 (三重県)

採取人材不足

砥部焼 (愛媛県)

採取人材不足

大堀相馬焼 (福島県

調達コスト増加

樹・草

和紙用原料
(楮、三椏、雁皮)

越前和紙 (福井県)

採取人材不足

因州和紙 (鳥取県)

採取人材不足

土佐和紙 (高知県)

採取人材不足

加茂桐箪笥 (新潟県)

天然資源の枯渇

京指物 (京都府)

天然資源の枯渇

福山琴 (広島県)

天然資源の枯渇

名古屋桐箪笥 (愛知県

調達コスト増加

絹糸

置賜紬 (山形県)

天然資源の枯渇

与那国織 (沖縄県)

天然資源の枯渇

本場大島紬 (宮崎県)

調達コスト増加

麻糸
(苧麻、大麻)
(手績み糸、紡績糸)

小千谷縮、小千谷紬 (新潟県)

輸入原料による品質低下

近江上布 (滋賀県)

採取人材不足

宮古上布 (沖縄県)

採取人材不足

八重山ミンサー、八重山上布 (沖縄県)

採取人材不足

真綿の紡ぎ糸

結城紬 (茨城県)

採取人材不足

伊勢崎絣 (群馬県)

天然資源の枯渇

染料

染料各種

久米島紬 (沖縄県)

採取人材不足

東京染小紋 (東京都)

原油高によるコストの上降

京黒紋付染 (京都府)

採取人材不足

塗料

鎌倉彫 (神奈川県)

採取人材不足

金沢仏壇 (石川県)

天然資源の枯渇

京仏壇、京仏具 (京都府)

採取人材不足



<用具>

問題を抱える用具

伝統的工芸品

問題・課題形態

織り

織機

博多織 (福岡県)

調達先の減少

小千谷縮・小千谷紬 (新潟県)

調達先の減少

久留米絣 (福岡県)

調達先の減少

本場大島紬 (宮崎県)

調達先の減少

本場大島紬 (群馬県)

製作・原材料育成人材不足

宮古上布 (沖縄県)

調達先の減少

琉球絣 (沖縄県)

調達先の減少

竹筬

宮古上布 (沖縄県)

調達先の減少

琉球絣 (沖縄県)

調達先の減少

結城紬 (茨城県)

製作・原材料育成人材不足

本場大島紬 (宮崎県)

製作・原材料育成人材不足

与那国織 (沖縄県)

製作・原材料育成人材不足

八重山上布、八重山ミンサー (沖縄県)

製作・原材料育成人材不足

読谷山花織・読谷山ミンサー (沖縄県)

製作・原材料育成人材不足

描き

刷毛(漆工用)

秀衡塗 (岩手県)

調達先の減少

浄法寺塗 (岩手県)

調達先の減少

鎌倉彫 (神奈川県)

調達先の減少

山中漆器 (石川県)

伝統的な生産用具の入手が困難

越前漆器 (福井県)

製作・原材料育成人材不足

名古屋桐箪笥 (愛知県)

調達先の減少

蒔絵用筆

越前漆器 (福井県)

製作・原材料育成人材不足

京仏壇・京仏具 (京都府)

製作・原材料育成人材不足

山中漆器 (石川県)

製作コスト増加

金沢漆器 (石川県)

調達先の減少

彩色・面相用筆

京焼・清水焼 (京都府)

調達先の減少

博多人形 (福岡県)

調達先の減少

漉き

簀桁

越中和紙 (富山県)

調達先の減少

美濃和紙 (岐阜県)

製作・原材料育成人材不足

大州和紙 (愛知県)

調達先の減少

彫り・削り

彫刻刀

鎌倉彫 (神奈川県)

調達先の減少

大阪欄間 (大阪府)

製作・原材料育成人材不足

焼き

京仏壇、京仏具 (京都府)

製作・原材料育成人材不足

尾張七宝 (愛知県)

調達先の減少

(出所)「伝統的工芸品づくりの材料・道具ネットワーク・データベース」

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1-3.調査対象の生産基盤の概要

 

◇調査対象の選定

本年度は、これら調達が問題となっている主要な生産基盤の中から、特に重要と考えられる以下の10品目を選定し調査を実施した。

 

図表1-3   本年度の調査対象生産基盤

■ 原材料:陶土、竹、麻糸(苧麻糸)、漆、和紙原料(楮、三椏、雁皮)
■ 用具 :織機、筬(竹筬)、筆(蒔絵筆)、刷毛(漆工用)、簀

 

 

 以下、本年度調査対象として選定した生産基盤10品目(陶土、竹、麻糸(苧麻糸)、漆、和紙原料(楮、三椏、雁皮)、織機、筬(竹筬)、筆(蒔絵筆)、刷毛(漆工用)、簀)について、製品の概要を記す。

 

<調査対象生産基盤における調達上の問題>

 選定した生産基盤の調達上の問題は以下のとおりである(「伝統的工芸品づくりの材料・道具ネットワーク・データベース」による)。

 

図表1-4  調査対象生産基盤における調達上の問題

原材料

陶土

天然資源の枯渇、質の低下、採取人材不足、調達コスト増加

 

採取人材不足、天然資源の枯渇、調達コスト増加

 

麻糸(苧麻糸)

採取人材不足、輸入原料による品質低下

 

採取人材不足、天然資源の枯渇

 

和紙原料

採取人材不足

用具

織機

調達先の減少

 

筬(竹筬)

調達先の減少、製作・原材料育成人材不足

 

筆(蒔絵筆)

製作・原材料育成人材不足、製作コスト増加、調達先の減少

 

刷毛(漆工用)

調達先の減少、伝統的な生産用具の入手が困難、製作・原材料育成人材不足

 

調達先の減少
製作・原材料育成人材不足

(出所)「伝統的工芸品づくりの材料・道具ネットワーク・データベース」

 

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(1)原材料

 

① 陶土


 

◇陶磁器用原土の種類

陶土は、磁器や陶器の製造に使用される原料である。現在、産地の陶磁器に使用されている原料は、国内産の陶石質原料、粘土質原料、輸入のカオリンに大別される。陶石質原料は磁器製造の主原料であり、粘土質原料は主に陶器に使用される。

 

図表1-5 陶磁器に使用される原料の種類

分類

概要

代表的な原料

陶石質原料

陶石は、磁器原料としてわが国では古くから重要なもので、現在でも主要原料となっている。
衛生陶器・タイル・硬質陶器などの原料としても欠くことができないものである。工業的には、陶石を微粉砕し、可塑性粘土を加えて坯土としている。
現在、わが国で最も広く用いられている磁器の原料は天草陶石である。

天草陶石(有田焼)
砥部陶石(砥部焼)
出石陶石(出石焼)
花坂石(九谷焼)

粘土質原料

粘土は、広義には直径0.01mm以下の微粒子よりなる土壌の総称である。
大別して、中世火成岩が熱水作用を受けて生じたもの(村上粘土等)、優白質水成岩が地表風化を受けて生じたもの(本宮粘土等)、泥質水成岩が炭層より分離される腐植物質の影響を受けて生じたもの(木節粘土等)に分けられる。

村上粘土(新潟県)
蛙目粘土(瀬戸、美濃)
木節粘土(瀬戸、伊賀)
三郷山粘土(信楽)
その他多数

カオリン (輸入原料)

耐火土が高くカオリンナイトを主成分とする粘土。高級な磁器素地の重要な原料であるが、日本には商業的な磁器用カオリンはほとんど産出しないので、韓国に産出する河東カオリンなどを輸入している。
組成は、珪酸46.5%、アルミナ39.5%、水14%。磁器製造の原料粘土は陶石を主体にカオリン、そして可塑性を増やすために蛙目粘土を適量に配合して用いる。

河東カオリン(韓国)
ニュージーランドカオリン
金剛カオリン(北鮮)

 (出所)日本粘土学会の資料

 

◇産地における原料の使用状況

陶土の陶磁器製品に使用される坯土は、これらの原料を単味であるいは調合して製造されるが、近年は良質な国内原料の減少により、調合した坯土の利用が増えている。伝統的陶磁器製品では、地元原土のみを使用している産地、地元原土を主体に瀬戸、岐阜等の大量粘土資源を調合している産地、他地域の原土のみを使用している産地に大別される。九谷焼では、手引きの製品は地元原土のみ、型ものは調合した坯土を使用している。また、輸入原料であるカオリンは、磁器の製造に使用されているが、伝統的工芸品ではあまり使用されていない。

 

図表1-6 陶磁器のはい坏土における原料の調合状況

原土の使用タイプ

産地の例

産地の原土のみを使用

越前焼、備前焼陶、丹波立杭焼、天草陶磁器、赤津焼、九谷焼、瀬戸染付焼、唐津焼、小石原焼

産地の原土を主体に他地域の原土を調合

小代焼、美濃焼、上野焼、九谷焼、伊賀焼、大谷焼、唐津焼、出石焼、信楽焼、会津本郷焼、大堀相馬焼、笠間焼、益子焼

他地域の原土のみを使用

三川内焼、京焼・清水焼

 (出所)平成19年度「伝統的工芸品の生産基盤の取引・流通と情報収集に関するアンケート調査」をもとに作成

 

九谷焼の陶土製造

 

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② 竹

 

<竹の種類と産地>

青森県を北限として日本全国で栽培。日本では特に九州地方に多く繁殖し、中国、四国地方においても多くみられる。また、日本では主に三大竹といわれるモウソウチク、マダケ、ハチクが繁殖しており、日本の竹の90%を占める。

伝統的工芸品の原材料となる竹には、3大竹以外にまだ十数種あり、用途やデザインによって使い分けられている。竹工芸品産地へのアンケート調査によれば、真竹が最も多く、すす竹、矢竹、孟宗竹、支那竹、女竹、淡竹などの利用も多い。

多くの産地で調達上の問題となっている主要な竹は、真竹(駿河竹千筋細工  別府竹細工  都城大弓  八女提灯、京扇子・うちわ)、孟宗竹(駿河竹千筋細工、八女提灯、京扇子・うちわ)であり、その他では、淡竹・すす竹(高山茶筌)、筆軸用各種竹(奈良筆、熊野筆)、和竿用各種竹(江戸和竿)、房州女竹(房州うちわ)である。

 

図表1-7 伝統的工芸品に利用される主な竹

真竹(マダケ)

日本の栽培竹の6割を占め、大分県は全国No.1のマダケの産地。竹細工で使用する竹の中でもっとも生産量が多い竹である。稈は弾力性に富み、弓、竹刀、尺八・物差し、建材等竹製品全般に利用される。編組みに適した竹で、別府竹細工の主な材料となっている。

すす竹

民家の萱葺き屋根の天井に骨組み等に使われ、釜戸や囲炉裏の煙などで長年かけて赤黒くなったもの。

矢竹

昔は弓軸の材料として特に武家の屋敷に良く植えられた。用途として、矢、筆の軸、釣り竿、装飾用窓枠などに使われる。

孟宗竹(モウソウチク)

日本のタケ類の中では最大で、稈の高さは25m、最大直径20cmに及ぶ。花筒、床柱、竹器、建築装飾、造園などに利用される。

支那竹

直径が1センチほどの細い竹で渦巻模様の斑がある(中国原産)。丸竹のままで工芸品などに使われている。

女竹

川岸や海辺の丘陵などに群生する多年生常緑の笹。

淡竹(ハチク)

中国原産の竹で、北海道南部以南の各地で栽培。日本では、モウソウチク、マダケに次いで多くみられる。竹細工では貴重な素材として使用される。花器、茶筅、菓子器、桶、垂木、竹釘、垣根、すだれ、薬用などに利用される。

黒竹(クロチク)

和歌山、四国地方に多く、その他九州でも自生するが量が少ない。用途は、竹製品、内装材、釣竿、家具の一部、観賞用等に利用される。


主な竹

 

図表1-8 伝統的工芸品における竹の使用状況

カテゴリ

件数

構成比

真竹

13

76.5

すす竹

5

29.4

矢竹

5

29.4

孟宗竹

4

23.5

支那竹

4

23.5

雌竹(女竹)

4

23.5

淡竹

3

17.6

篠竹

1

5.9

その他

2

11.8

サンプル数(%ベース)

17

100

 

<竹材の製造>

伐採された真竹等の青竹は、一般に製竹業者により油抜き作業が行われ天日乾燥した後、竹材として出荷される。油抜き作業は、余分な水分や油分を除去するための作業で、材料を作り上げるための大切な工程である。

油抜き処理には、乾式法と湿式法がある。乾式法は「火晒し」とも呼ばれ、火にあぶって油脂分を竹の表面に滲み出させて手早く丁寧に拭き取っていく方法である。焦げやムラができないよう火の当て方に注意を要する。一方、湿式法は「湯晒し」とも呼ばれ、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)水溶液(0.020.05%)を入れた浴中で2030分程度煮沸して、竹の表面に滲み出た油脂分を手早く丁寧に拭き取る方法で、大量の竹材処理に適する。これらの油抜きした竹材は、処理後半月から1ヶ月ほど天日で乾燥させると竹材表皮の緑色が象牙色へと変わる。これを白竹(油抜き竹)という。

 

図表1-9 油抜き作業

 

 

 

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③ 麻糸(苧麻糸)

 

 伝統的工芸品の織物において、使用されている麻糸は苧麻(からむしの手績み糸、ラミーの紡績糸)、大麻(手績み糸)、リネン等である。宮古上布や八重山上布等沖縄の産地で調達上の問題が発生している麻糸は、苧麻(からむし)を原料とする手績み糸である。小千谷縮や近江上布においては、ラミーの紡績糸(輸入原料)も使用している。

 

<原料となる苧麻(からむし)>

 苧麻は、イラクサ科の多年生草木の植物で、その種類は世界中で1000種近くあるといわれている。現在では、日本・中国・インドネシア・ブラジルなどが主産地である。日本では、昭和村(福島県)、石垣島・宮古島(沖縄県)等において栽培されている。その呼び名は各地で異なり、からむし(昭和村)、青苧、ブー(宮古島、石垣島)などと呼ばれている。

 市場で販売されている苧麻糸の商品の総称としては「ラミー」が主流となっている。品種が異なることから、昭和村では、村で管理栽培しているものを「からむし」、中国産などの輸入物を「ラミー」と呼び分けている。

 

<手績み糸>

 手績み糸は、以下のような工程を経て作られる。

・成長した苧麻を刈り取り、清水に漬け皮をむき、その皮の肉質をこそぎ落として繊維だけを取りだし(苧引き)、乾燥して原麻が作られる。

・原麻の繊維を荒く裂き、さらに爪を使って細かく裂き糸にし、その糸先を一本ずつ捩り合わせてつなぎ、均一にする(苧績み)。長くつなぎ合わせた糸を糸車で「よりかけ」し、単糸の手績み糸が出来上がる。

 

図表1-10 からむしの原麻の製造工程

からむしの原麻の製造工程

図表1-11 手績み糸が出来るまで

手績み糸が出来るまで

 

<紡績糸>

小千谷縮、八重山上布では、国産の苧麻の生産量が少ないために、フィリピンなどから輸入したラミーと呼ばれる苧麻の紡績糸を使っている。生茎から繊維を採るには、動力式皮剥ぎ機(decorticator)を用いる。茎が乾燥すると分離しにくいので、刈取り後直ちに機械にかけて木質部を砕き、たたき落して繊維を抽出する。これを天日乾燥したものが原料となる。繊維の採取率は葉っぱを落した生茎に対して4 5%である。


図表1-12 輸入物のラミー紡績糸

 

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④ 漆

 

<漆と産地>

漆はウルシ科、ウルシ属の落葉高木で、樹高1015mになる。中国原産といわれ、日本では漆採取のために栽培され全国に分布しているが、うるし採取が行われているのは岩手県、茨城県などに限られている。樹液が「漆」として利用されるのは、日本、朝鮮半島、中国に分布する漆のほか、別種で東南アジアに分布するインドウルシ、カンボジアウルシ等がある。

中国の産地は,中央の山間地域に位置する湖北省,湖南省,四川省,陜西省,貴州省などが主で,品質つまり,粘稠度,色,透明度,乾燥時間,硬さ,水分量など,その特長を生かして輸入されている。日本と同様の漆の木から採取されるが,地理的な違いや採取,集荷方法の違い,また輸送に時間がかかるなどの理由から,輸入される漆は日本産と比較して品質は落ちるといわれている。

 

<うるし掻き>

うるし液の採取の方法は、ウルシノキの幹に傷をつけて、滲み出してくる樹液を特有の金ヘラで掻き取る。これを「うるし掻き」と呼ぶ。「うるし掻き」の時期は、およそ6月中旬から10月末まで行い、時期によって、採取された漆液の呼び名やその品質も異なっている。

うるし掻きの方法は、2通りあり、一年で樹幹の全体に傷を付け、採りきってしまう「殺掻き(ころしがき)法」と、数年に渡って採り続ける「養生掻き(ようじょうがき)法」とがある。現在はほとんど「殺掻き法」で採取している。「殺掻き法」は一年でうるし液を採りきり、その後萌芽更新のため木を切り倒す。

漆の木一本あたりの産出量は、813年経た成木(周囲2530センチ程度)で一年間にわずか200グラム程である。また、ウルシノキがうるし液を採取できるまでに生育するには813年かかるので、天然の漆液は非常に貴重なものである。

 

図表1-13 漆掻き

漆掻き1 漆掻き2 

 

<漆の精製>

漆の木から採取したそのままの漆液を、「荒味うるし」という。漆液は、樹幹からにじみ出した当初は乳白色をしているが、空気に触れると酸化し褐色に変化する。このため、採取した「荒味うるし」は木製の桶に入れ、蓋紙をして密封状態で出荷される。「荒味うるし」を塗料として使えるようにするために、下図のような工程を経て精製し、「精製漆」にする。漆の精製では、ろ過、なやし、くろめの一連の精製作業が、塗料としてのうるしの品質を左右する重要な工程である。

・ろ過 :「荒味うるし」はゴミや木の皮などが混入している。これに綿をちぎっていれ、熱を加えてろ過する。ろ過されたものを「生漆」という。

 ・なやし:荒味漆や生漆の質を均一にし、塗装時の平滑性や光沢を与えるために、撹拌する作業を「なやし」という。

 ・くろめ:なやし作業に続いて、熱を加えながら撹拌し30%程度含まれている水分を34%まで徐々に抜いていく作業を「くろめ」という。

 

図表1-14 漆の精製工程(生漆から製品化まで)

漆の精製工程(生漆から製品化まで) 

(「漆を科学する会」のホームページ等より作成)

 

図表1-15 漆の製品化工程の実際(生漆から製品化まで)

漆の製品化工程の実際(生漆から製品化まで)

(出所)(株)箕輪漆行の資料より

 

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⑤ 和紙原料(楮、三椏、雁皮)

 

和紙の原料としては、主に、楮(こうぞ)、みつまた、雁皮(がんぴ)の靭皮(植物の外皮の下にある柔らかな内皮)繊維が使われてきた。このうち、楮は繊維が太くて長く強靭なため、幅広い用途に最も多く使用されている。雁皮は山に生えているものを取って使うため、生産量は少ない。上記の3種類のほかに、紙の用途に応じて、麻、わら、桑、竹、木材パルプなども和紙原料として使用される。

 本来これらの原料は、日本の国の山野、原野に野生のものを採取したり、畑のあぜ道、山の傾斜地等に栽培をして収穫をしていたりしていたが、和紙の消費量が少なくなるのと同時に、原料の生産高も少なくなった。その大きな要因として、1)原料の販売価格が労働に見合うだけの価格で販売が出来ず赤字生産になった、2)フィリピン・タイなどから安い原材料の輸入が始まり各地の和紙メーカーは好んでその原材料を使うようになった、などがある。

 

図表1-16 和紙の原料

和紙の原料

図表1-17 和紙原料の産地と用途

種類

主な産地

主な用途

楮(こうぞ)

生産高の過半数が高知県産の土佐楮。他に、那須楮や八女楮、石州楮など。

障子紙、表具洋紙、美術紙、奉書紙、その他幅広い用途に使用。

三椏(みつまた)

岡山県、高知県、徳島県、島根県、愛媛県

日本銀行券(紙幣)、金糸銀糸用紙、金箔の間にはさむ箔合紙、カナ用書道用紙、美術工芸紙など。

雁皮(がんぴ)

徳島県

金箔銀箔を打ちのばす箔打ち紙、襖の下貼り用の間似合紙など。

(出所)「全国手すき和紙連合会」のホームページより


<和紙原料の製造工程>

 楮、三椏は、蒸して木質部から剥皮した皮を「黒皮」といい、黒皮を乾燥した後、皮さらしなどを行って外皮をはぎとった内皮を「白皮」と呼ぶ。和紙原料としては、黒皮あるいは白皮の状態で、生産農家から紙すき屋に出荷される。品種の違いによりそれぞれ分類され、共に15kgを一束として結束されている。

楮、三椏は、蒸して木質部から剥皮した皮を「黒皮」といい、黒皮を乾燥した後、皮さらしなどを行って外皮をはぎとった内皮を「白皮」と呼ぶ。和紙原料としては、黒皮あるいは白皮の状態で、生産農家から紙すき屋に出荷される。品種の違いによりそれぞれ分類され、共に15kgを一束として結束されている。

 

図表1-18 楮の白皮づくり

楮の白皮づくり

(「あーと和紙工房はくすい」より)

 

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(2)用具

 

① 織機

 

 伝統的織物の産地では、さまざまな織機が使用されている。最も多く使用されているのは高機(長機)で、足踏機、ジャカード織機の使用も多い。

その他として、高機(短機)、高橋織機、力織機レピア、機械織機、綴織機、力織機、半自動織機などが使用されている。織機の調達が問題となっている産地は、小千谷縮、小千谷紬、博多織、久留米絣、久米島紬であり、対象となっている織機は高機がほとんどで、博多織のみが機械織機である。

図表1-18 伝統的織物産地で使用されている織機

種類

件数

構成比

いざり機

3

13.0

高機(長機)

17

73.9

半機

3

13.0

足踏機

7

30.4

ジャカード織機

6

26.1

ドビー機

3

13.0

その他

7

30.4

合計

23

100.0

(出所)平成19年度「伝統的工芸品の生産基盤の取引・流通と 情報収集に関するアンケート調査」


<主な織機>

①高機(たかはた)

日本の手機には主に地機と高機がある。地機は日本古来の織機で、床に腰をおろす姿勢で織るため、織機が比較的コンパクトにできている。これに対し、高機は椅子に座って織るため、複数の綜絖(そうこう)を足の踏み込みによって上げ下げすることにより複雑な織りも可能になった。

 

図表1-19 高機の例

高機の例1高機の例2

(出所)(独)農畜産業振興機構のホームページより

 

②ジャガード織機

 明治期に日本に導入された手動式の機織機(はたおりき)。「ジャガード織機」は、たて糸1本ずつを自由に上下することができるようにした織機で、「複雑な模様」や「大きな模様」の織物ができる。

 紙に穴を開けた「紋紙(もんがみ)」を使い、模様に連動した穴の有無を信号として、経糸を持ち上げる、上げないという指示をして複雑な模様を作り出すもの。最近はコンピューターから紋様データー指示が出されるようになってきた。京都西陣、桐生で多く使用されている。

③足踏機

  足踏機は、英国人ラドクリッフによって考案され、力織機の動力の変りに足で運動をおこすように設計されたもので、足踏により機械全部を動かして、織物を織っていくように作られた織機である。旧来のバッタンよりも極めて簡単に操作ができ、性能もすぐれているので現在の手織織機として数多く使用されている。

 

図表1-20 ジャカード織機の例(桐生織)

ジャカード織機の例 


図表1-21 足踏機の例

足踏機の例

 

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② 筬(おさ)

 

織物を織るときに経糸(たていと)を通す櫛状のもの。英語でリード(reed)という。竹や金属でできた筬羽が櫛の歯のように一定間隔に並べられ、両端が固定されたものである。織物を織るために筬が織機に取り付けられている状態では、筬羽と筬羽の間に経糸が通されている。筬が前に動くことによって筬羽が緯糸を既に布となっている側へと強く押し付ける。そうして緯糸は固く締め付けられて新しく布が増す(織られる)ことになる。手織でも現在、主に金筬が主流となっているが、伝統的な手織においては竹筬へのこだわりがあり、調達上の問題が生じている。

竹筬の調達が問題となっている産地は、結城紬、本場大島紬、宮古上布、読谷山花織、読谷山ミンサー、琉球絣、与那国織、八重山ミンサー、八重山上布等で、特に沖縄の産地において大きな問題となっている。

 

図表1-22 ステンレス製筬

ステンレス製筬

現在使われている筬。平織用、朱子織用など、織機により筬密度が違う。
(柳沢ウ-ベンラベル(株)より)

 

図表1-23 竹筬

竹筬

竹筬研究会会員による竹筬の試作品(上)と、奄美大島で使用されていた日本竹筬工業の竹筬(下)

 

<竹筬の技術>

葦から始まったという筬は、永らく竹製のものが主力であった。竹筬の利点は、弾力性があるために経糸の節も多少であれば通るので風合いが出るといわれており、今でも手織の人には愛好されている。筬羽の密度は変更が可能で、羽/寸、羽/cmなどと表示される。

竹筬の製作工程は

1:竹材を目的の厚さまで削る工程

2:削られた竹材をさらに精緻に削り、油を引き、焼くまでを含め竹筬羽に仕上げる工程

3:竹筬羽を組んで竹筬にする工程

の3つに分かれており、各工程が基本的には各職人の分業で行われてきた。

 

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③ 筆(蒔絵用)

 

 伝統的工芸品の産地で、筆を調達上の問題として挙げているのは、山中漆器、金沢漆器、越前漆器、京仏壇・京仏具、京焼・清水焼、博多人形である。京焼・清水焼は陶磁器用、博多人形は人形用の筆であり、他の産地に共通して問題となっている筆は蒔絵筆である。

 蒔絵筆は使われる目的によって種類が分かれる。精巧なもの、漆の含みのよいもの、かるい絵を描くためのものなどであるが、漆で描く筆は、いずれも長短の調節が自由にできるようになっている。

獣毛の毛先には"水毛(みずげ)"といって、水に濡れると透けるような先端がある。とても痛みやすい部分で、この水毛が整っていることが筆の条件となっている。

 

図表1-24 蒔絵筆の種類

 

根朱筆(ねじふで)

精密な蒔絵用で、穂先の腰が強く、肉持ちのよい長い線が描ける。穂は、鼠の背毛から選ばれる。脇毛でつくられた脇毛筆もある。

根朱替筆(ねじがわりふで)

蒔絵用であるが、穂先の腰が柔らかい。猫の毛でつくられる。肉持ちのよさはないが、細い線描き用である。

その他の筆

猫のほか、狐、狸、馬、山羊、栗鼠、鼬(いたち)などが使われる。

蒔絵筆の種類

 

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④ 刷毛(漆刷毛)

 

<漆刷毛について>

 漆刷毛は、板の間に人毛が挟まれた長さ6寸の構造をしており、鉛筆のように人毛が最後まで通っている「本通し」、半分まで入っている「半通し」等がある。現在の漆刷毛の構造は、初代泉清吉が1652年に初めて考案したものである。漆刷毛は、毛が摩耗したら、鉛筆のように新規に切り出して使用するため、一本で約20年間使用することができる。

漆刷毛製作には、人間の髪、馬毛の毛と、それを固める糊と漆。そして毛板(けいた)と呼ばれる糊漆で板状に固めた毛を、はさんで密着させる板を材料として使用される。その中で特に重要なものが人毛である。江戸時代より日本人女性の長い毛髪で日本髪を結う時に使うかもじの古いものを用いて製作されてきたが、後年かもじの入手が困難となり、中国から輸入された人毛が使われるようになり、現在は一部の製品を除いて中国産人毛が使用されている。その他、特殊な刷毛として、馬の毛を使用した乾漆刷毛、胴摺刷毛などがある。

 刷毛の価格は、入門用の安価な製品からかもじを使用した最高級の高価な製品があり、最高級のもので5万円~10万円程度である。価格は、近年ほとんど変わっていない(一部の製品は価格が下がっている)。

 

図表1-25 漆刷毛に使用される人毛

入手困難となった「かもじ」   入手困難となった「かもじ」

入手困難となった「かもじ」

現在主に使用されている中国人女性の毛髪

現在主に使用されている中国人女性の毛髪

 

図表1-26 揃えた髪毛を糊漆で固めた毛板

揃えた髪毛を糊漆で固めた毛板

板と毛板とを張り合わせて刷毛が出来上がる

 

図表1-27 かもじを使用した最高級漆刷毛

かもじを使用した最高級漆刷毛

 

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⑤ 簀(す)

 

手漉き和紙は簀桁(すけた)という用具を使ってつくられる。繊細な竹の簾のような簀を、桁にはめて使う。それぞれ作る紙の大きさにあわせて作られている。

簀は国産の真竹を極細の竹ひごに加工し、強じんな絹糸使って編まれており、一定間隔で糸の締まり具合を均一にする。萱(かや)ひごを使った簀もある。絹糸は、簀のために作られたものを業者から購入して使用する。一部の産地の簀では絹糸の代わりにナイロン糸も使用されている。竹ひごは漉く紙の種類によって太さが異なる。

桁は、簀を取り付けるもので、木目のよく通ったひのき材を使い狂いが生じないように、また原料をくみ込んだときに水平になるように、わずかに山形に湾曲させてつくられており、軽くて丈夫、水の中で狂いがないなど独自の製作技術が求められる。簀と桁の製作は、同じ職人が両方を製作する場合が多いが、それぞれ別の職人によって製作される場合もある。

 

図表1-28 簀桁(すけた)
(Awagami Factory提供)

簀桁(すけた)

図表1-29 簀
(森島和紙用具工房提供)

簀

図表1-30 簀の製作風景/桁と金具

簀

 

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