【蒔絵筆-1】蒔絵筆の生産・供給状況(輪島漆器蒔絵業組合)
1.蒔絵筆の製作者
・蒔絵筆の製作者としては、村九商店(村田九郎兵衛)、久野商店(久野稔)、大野久夫、角岡、村田正造など5名程度いる。その他、ぺんてる(株)が輪島漆器蒔絵業組合と共同で人工蒔絵筆を商品化している。久野商店は、陶磁器の上絵付け筆の製作を専業としていたが、30年前に蒔絵筆の製作に取り組んだ。
2.最近の蒔絵筆の品質
・最近の蒔絵筆は、昔の筆と比較して、毛とグリップとの間に隙間があり筆の強さが出ないという問題がある。そのため、粘りのある漆を使うことが出来ない。これは、毛を縛る強い天然麻が入手できなくなり、毛を強く縛れなくなっているためである。
3.根朱筆の製作状況
・根朱筆の製法に関しては、村九商店がネズミの毛のくせを伸ばすノウハウを有しており、昔は村九商店のみが製作していた。平成14年のNHKの放映後に、蒔絵筆の製作者である大野氏、久野氏から試作品の提供が行われ、その改良に輪島漆器蒔絵業組合が協力を行った。現在は、少量であるが、久野氏、大野氏もネズミの毛を入手して製作を行っている。輪島漆器蒔絵業組合では、久野氏が従来から使用していた根朱筆に近いものを出来るようになったため、組合として取り扱っている。
・根朱筆に使用されるネズミは、ドブネズミとクマネズミである。久野氏の根朱筆では、長良川で少量捕獲できるドブネズミの毛を利用している。11月~1月に取った冬場のネズミの立ち毛を利用する。毛の長い筆を作る場合、10匹のネズミで1本の筆しかできない。大野氏は、研究用に養殖されているドブネズミの毛を入手し利用している。
・根朱筆は高価で、猫毛の筆が2700円程度であるのに対し、3万円以上する。
・蒔絵筆は、水毛がなくなったり、毛の根本に漆が固まったりしたら使えなくなる。寿命は一概には言えないが、月5~6時間程度使用した場合、4年以上使うことができる。
4.ねずみ毛の筆(根朱筆)の良さ
・蒔絵筆は現在、猫の毛を使用した筆が主流であるが、ねずみの毛は猫より一本一本の毛が硬く、描いた後で真っ直ぐになろうとし、毛先がそろってくれる。また、漆を含む量も違う。そのため、1)毛を揃える作業がいらないため作業性が良い、2)粘りのある漆を使って盛り上げた線を描くことができる(立体感のある蒔絵が描ける)、3)一度筆に含ませた漆で長い時間描くことができる、等の利点がある。
・組合では、見本展においてサンプルを置いて根朱筆の普及を進めてきたが、まだ十分な成果を挙げていない。組合では、その理由として、
①長い歳月の間に、代用品として、他の筆に慣れてきた
②根朱筆の良さを知らない。使ったことがない年代層が多くなってきている。
③村九筆と違い他のメーカーの筆に対する不信感
④業界の冷え込みによる購入自粛(価格の問題)
⑤先白筆と、本根朱筆の使い勝っての差
等があると考えている。
5.ネズミの毛の供給者
・ネズミの毛は、動物の毛皮を集荷し販売する問屋を通して筆屋に供給される。問屋は、ネズミを捕獲する人から毛皮としたものを集める。長良川のドブネズミを捕獲する人は、高齢者で、川猟師で仕事のない冬場に仕事をしている。ネズミの捕獲は、県の許可をもらいトラバサミを使用して行う。
6.人工筆について
・ぺんてるの人工筆は、ナイロン樹脂製で、平成16年に輪島漆器蒔絵業組合とぺんてる社の協同開発により発売された。現在、これを改良した筆が3種類商品化されている。輪島漆器蒔絵業組合では、従来の蒔絵筆製作技術の保存・継承も重視していることから、これ以上の人工筆の開発には取り組まない方針である。
・人工筆の生産は、1ロット1000本で、少量の個別購入は難しいことから、金粉・金箔業者がPRと販売を行っている。現在、多くの蒔絵師によって使用されている。曲線を描くにはまだ問題があるものの、真っ直ぐな線を描く筆としては十分なレベルに達しているという。

村木広幸氏所有の蒔絵筆
(輪島漆器蒔絵業組合村木広幸組合長へのヒアリング調査をもとに作成)